グランドデザインコンテスト

現代住環境

第1章 欧州の住環境

1-1 欧州の住環境

著者は昭和40年代・二十歳後半から昭和50年代・三十歳後半までの間の延べ約10年間に欧米の30数カ国に駐在、または長期出張した経験があり、その折々に各国の市街地の形成、建造物、庭園・植生、気候・文化、服飾文化・食文化等々を見聞きしたし、彼らの生活慣習などは現地人との深い交流や語らいの中から国内では得られない貴重な経験をする事が出来た。それらの経験から住環境と快適性について著者の考え方を述べさせていただきながらテーマに沿って纏めていきたいと思っている。さらに行数に余裕があるならば住宅設備のあり方と安全性等についても考え方を述べてみたいと考えている。

個人向け住宅、いわゆる国内の戸建住宅はここ10年から20年間に飛躍的な変化が見られる。それ以前には住宅街を散策し目線を上へ移すとそこには寄席棟、または切り妻型であったりし、そこには日本瓦で葺いた屋根や門冠りの松の木などをどっしりと植え込んだ家などが多く見られた。また、ところどころには洋風の建物も見られたが、この場合の洋風と呼ぶ部分は概して南東側に面した居間と思われる辺りを洋風仕上げした、いわゆる和洋折衷の建物が散見された時期があった。飛躍的な変化と書いたのは、そこに必然性が存在し、その結果として現在の住宅街などに見られる欧米風な戸建住宅が多く立てられるようになってきたと考えられる。何事によらず、物事が急速に成長・発展し、急激な増加・拡散が生じた場合に、往々にして其処には何らかの歪や弊害が少なからず生じてくることが経験則として判っている。人は、発展度合いと弊害の収支バランスを考えながらメリットが大きい発展を選び先へ進むケースが多く、メリットの部分が大きく存在している場合には、負の弊害が目立たないものである。しかしながら、その成長度合いが減ったときや止まった場合に、負の弊害が重くのしかかってくる場合が多々あるのが常であろう。最近の急激な戸建洋風建築の増加傾向の中にあって、住宅産業の世界でも何らかの負の弊害が潜んでいないかを注意しながら探し、もしあるのであれば少しでも早く負の部分を修正することが望まれ、以下に一つの問題提起をさせていただく。

従来からの、在来工法と呼ばれる日本伝統の木質系軸組み工法は優れた建築技術であり、古くから神社仏閣などの大伽藍などに多用され、数百年の風雨に耐えて立派にその姿を今に留めている名刹が多くある事は皆様の良く知るところである。しかしながら、密集した住宅街では、新しい法規制による耐火性や耐震性などの観点から躯体や外壁を軽量鉄骨、及びサイデング・パネルなどを多用した軽量鉄骨プレハブ・パネル工法、外観デザインなどもタイルやレンガ風の壁にマッチした欧米風な外観の戸建住宅が増えてきているのは事実であろう。もちろん、木質系躯体に木質系パネル工法や北米由来の2x4工法なども少なからぬシェアーを占めてはいるが、外装はサイデング・パネル工法を用いた工法が多くを占め、その姿は西洋風建築に纏まっていると考えてよいであろう。

軸組み工法などの日本伝統の工法は在来工法と呼ばれる、それに対して西洋風建築を現代建築とか今日的建築などと呼ばれている。この両者で家を建てる場合に基本的な相違点は、前者は日本の夏季の高温多湿をいかにして凌ぎ易くするか、特別な電気エネルギーによる強制的(アクティブ)冷房・除湿に頼らなくても住居の中に快適空間を得られる様に先人が知恵を絞って造られてきた方法を取り入れている事である。その反面、冬季は、夏場の通気性・換気性を重要視したことから寒さは相当にあったと考えられ、その対処として薪炭をエネルギーとした囲炉裏(いろり)、火鉢(手かざし)、炬燵、あんか、または湯たんぽなどの局所暖房が使われてきた。それらは、囲炉裏を除けば、容易には移動が可能で、不要な時には納戸などに片付けたりする事ができる、所謂、器具と呼ぶべきものであった。この局所暖房器具を使用してきた在来工法の住宅から、現在多く見られる欧米風外観の建物へ移り変わって来たことは先に述べたとおりであるが、それらは耐震性を高めた躯体構造であることは論を待たないが、特徴としては高断熱、高気密化された住居になってきた事である。前者の在来工法の戸建日本建築と後者の現代風戸建住宅の戸数を時系列で見るならば、あたかも「需要と供給曲線」に似ていて、将来にかけて後者の戸建現代洋風建築の数は増加すると考えて間違いではないであろう。それは、耐震・耐火性を高める法的要求事項を満たす為の必要性だけでは無いと思われる。

其れは、国民全般の生活水準が近年特に高まり、国民の殆どが平均的中産階級意識などで表現できるように平均賃金の上昇によるゆとりが生まれてきているといえる。自分の家を建てるなら白壁の洋風建物と云う願望が明治維新後から今日まで我々日本人の考え方の底流にあったし、今日でも脈々とこの考え方は残っていると思われる。 つまり、「欧米に追いけ越せ」意識と、西欧文化への憧れからくるところが多分にあると考えるのはあながち間違いではないと著者は考えている。


矢印1-2 岩倉具視欧州視察団

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