グランドデザインコンテスト

現代住環境

第1章 欧州の住環境

1-3 イタリア・シシリー島の夏

メッシーナここでは、一般論で私見を述べているので、国内全ての地域の気候風土に合致した内容になっていない部分もあることをお断りして著者の主観で筆を進めさせていただく。そして、湿度と温度、さらに冷暖房設備に纏わる欧米人の考え方などを著者が欧米社会で生活した経験を紹介し、そこから、今後の戸建住宅の住宅設備のあり方などを参考までに記述してみたいと思っている。

例えば、夏は高温になる地域でも湿度が低ければ、それなりに凌ぎやすくなる場合がある。その例をイタリア南部やスペイン南部の、いわゆる地中海性気候地域に見ることが出来る。
著者の経験では、イタリア・シシリー島・メシーナ市(Messina)で夏の真っ盛りに大学の研究所の仕事があり、この地に2週間ほど滞在したことがある。この地域の夏季の昼休みは12時〜午後4時までで、この時間帯を昼食と身体を休める午睡の時間と決めている、それほど暑いのである。そして、再び仕事は午後4時〜午後7時までさらに3時間働くのである。大学の研究所の昼休みは全ての室に鍵をかけてしまい建物内に残ることが出来ず、やむなくこの時間帯は必ず市内のホテルへ昼食と午睡のために戻っていた。
昼食後は、ホテルの窓から本土との間を結ぶフェリーボートの発着を眺め、ある時は、この海峡(Messina海峡)で盛んな、カジキマグロを一本モリで突く勇壮なスバドン漁(スパダ漁)などを眺めて過ごし、飽きればベッドに横になり本当の午睡を楽しんだ。しかしながら、一時間もすると決まって目が覚める、涼しすぎて自然に眼が覚めるのである。湿度が低ければ、いかに快適かということを体感として味わった時期であった。
さらに付け加えるならば、男性の場合、この地域ではワイシャツの下には肌着類は着用しない、日本人の様にランニングシャツやTシャツなどは着ないのが一般的である。ワイシャツを肌に直接着けているがこれで快適なのである。しかも、肌にぴったり密着するほどきつめのサイズを着用し、ワイシャツの間に空気層が出来るような比較的ゆったりサイズは着けない。これも、大気中の湿度が低い地中海性気候固有の服飾文化といえよう。
確かに、この地域では日差しの強い戸外では相当な暑さである、しかしながら、室内や日陰はその暑さを感じないほど涼しい。この地域の多くの家々には、戸建や集合住宅などでは、居間の前にインナーバルコニーを設けている。そこは、庇に遮られて直射日光が室内に直接差し込まず日陰を作っていることと、南の海風を取り込みやすい構造をインナーバルコニーが持っていて、そこから居間へ、そして奥の部屋へ風を送り届ける役割を持っている。概して、この地域と似た気候環境にあるその他の地中海地域でも同様な建物構造をとっている。そして、夏は涼しく、冬はバルコニー床面の蓄熱作用により暖かさを得ていて、室内は常に快適性を得られる様に配慮されている。
それでもなお冬季に寒さを感じる場合には暖房器具の世話になる場合がある、南イタリアの多くの家では暖房のために大掛かりな設備などは取り付けていない、代わって、簡便な暖房器具を使用する場合が多い。そのためであろうか、ここイタリアでは電源コンセントに差し込めば容易に暖房が取れる効率の良いオイルヒーターが発達したのでは無いかと考えられる。

イタリアの大多数の家々は石造りで、都市部の高層集合住宅だけでなく個人住宅なども同じである。それは、この国では石灰石が豊富に採れるし、さらに大理石の産出も有名であるが故に、一般庶民の家でも室内の床は大理石で敷かれているし、洗面台の天板までもそれを使用している。イタリアを訪れた当初は贅沢な造りと思っていたが、自国から産出する資源を有効に使ったに過ぎないと、かなり時間が経過したころに理解する事ができた。 彼等の建物の基本構造は、多くの場合、レンガや石の積み上げであるが、レンガの中は中空になっていてある種の空気断熱性を持たせ、外壁は多重構造として機械的強度を得ている。 特筆すべきは、イタリアは火山国であり、ここメッシーナ市は僅か約70Kmしか離れていない場所に世界有数、且つ、欧州最大の活火山・エトナ山(3350m)があり常時噴火し続けていて過去に何度か大噴火による災害を受けている。その経験上、耐震性は、日本のそれと直接比較をしたことはないがそれなりの強度を確保していると思われる。
ある時、酒場でワイン片手に彼等と話しあったことがある、彼ら曰く、日本では木と紙で出来た家に住んでいるのをイタリア人は羨ましく思っていると話していた。この話は、著者にとって眼から鱗が取れたようで、以後、著者が欧米の人々が住む家に対する考え方を改めるきっかけになった。つまり、市街地の形成や戸建住宅などのデザインやその構造、使われる建材などは地域の気候と地域特産の資源、及びそこに住む人種固有の感性などがハーモニーしながら建物や住環境を歴史の蓄積と言う形で造り上げて来たのだと云える。


矢印1-4 スゥエーデンの冬

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