第1章 欧州の住環境
1-7 ドイツの家
著者は10ヶ月間ほどドイツ中部の学園都市・ゲッチンゲン大学(Goettingen Univ.)の研究所に通ったことがある。学園都市だけあって学生用の下宿屋が多く、著者もその例にもれず街の中心地にほど近いウンタラー・カールシュピューレ通り(Untere Karspuele)に面した下宿屋二階の小部屋に世話になったことがあった。下宿屋の常であろうか、家具や寝具など生活に必要なものは全て下宿屋から支給してもらえたし、掃除や洗濯も全てやってくれたので独り者としては有り難かった。ドイツでは学生に対しては何事も寛大で、特にこの街にはそんな気質が脈々と受け継がれているようであった。日本にも諺がある「ある時払いの催促なし」や、「出世払い」のような風習がこの大学にも残っていた。
この大学からは著名な学者が大勢輩出している、物理学者のガウスとウエーバー、そして核物理学者オットー・ハーンなどで、馴染みのあるところではではグリム童話で有名なグリム兄弟もこの大学の出である。また、街の裏山で三角測量が世界で始めて行なわれたが、確かガウスが行ったと記憶している。この大学では歴史的な物理科学や化学実験などの成果は枚挙に暇がない。
下宿屋の建物は、17世紀代に建てられた木造3階建ての家で、外装を漆喰壁やレンガで補修し、半地下に100年近く使われ続けたボイラーが設置されていた、熱源はガスであったろうか。そこではオーナーの老人が年代物のボイラーを大事に労わりながら使用していたし、きれいに整理整頓されて燃えるものなどはボイラーの周りには見当たらなかった。各室へはこのボイラーからセントラルヒーテング用のスチームを送り出して暖房をまかなっている。
夕方に研究所から帰宅し風呂に入りたいときなどは(欧米人は日本人ほど毎日入浴しない風習がある)研究所への出勤前にその旨をオーナーに話しておくとバスタブ用のお湯を特別に沸かしておいてくれた。ボイラーとその周辺の保守・整理整頓などはドイツ人の実直さと律儀さがこの下宿屋のオーナーの所作を見ているだけではっきりと分かるのである。
加えて、設備などの耐久消費財は保守をしながら永く使い込むことが当たりまえのように考えているドイツ人から見ると、家電製品などの保証期間が一年間である日本の商習慣にやや首を傾げていた、設備は永年使用し続けるものであり、一年保証は無意味とドイツでは考えられていて、一般的な保証期間は10年単位と考えているようである。なぜもっと永い期間に設定しないのかしきりにオーナーが不思議がっていたことを思い出している。
日本の一年間保証という考え方と商習慣の背景には、著者の考え方であるが、おそらく、日本民族は農耕民族でありその生活様式や生活習慣などの時間軸の尺度の基は「種まきから収穫まで」というような、太陽の運行と四季を基にした、農耕民族特有の一年周期の考え方が自然に身に染み付いているからではなかろうか、日・独両国間の考え方に大きな隔たりがあると感じた時期でもあった。
電機器具・設備メーカーは自社製品の平均予想寿命から予測して、たとえば3年保証や5年保証などとロングレンジの保証方法を耐久消費財などには提案できないのであろうか。 やや分野は異なるが、良い例として、最近の住宅メーカーでは、躯体や外装などを長期レンジで保証するようになって来ている。電機・機械製品の製造元でもこのような考え方をそろそろ導入してもいい時期に来ていると云えないであろうか。