グランドデザインコンテスト

現代住環境

第2章 国内の戸建住宅における快適性

2-2 冬季の暖房器具と安全性

冬季の暖房設備で市場や個人宅で普遍的に使用されている製品を列挙する前に、先ず考慮しておくべき安全性について考えてみよう。冬の「寒さ」という単語から直感的に連想する文字は「火」や「熱」であろう。更に「温もり」や「暖かさ」などが連想されてくると思うが、ここで大切な事は「火」と「熱」のリスクから如何にして戸建住宅、及びそこに住まう人々の安全を確保するかを考えておく必要がある。

住宅内の暖房器具として移動可能や可搬式で日本では昔から使われてきた器具類をすぐに思い浮かべることが出来るが、炭や薪による暖房や、化石燃料を使う石油ストーブ類は、端的に表現するならば裸火に近い状態で使用されながらそこから暖さの恩恵を受けている。身近で安直に利用できるメリットはあるが、反面、統計的に見てもこれらの暖房器具が直接原因となり出火や小火、または怪我(火傷など)に繋がったケースは決して少なくない。所謂、リスクの大きな暖房器具と呼ぶ事が出来る。

欧米人は、火に対し細心の注意を払い出火に繋がる直接・間接要因を大元から断つ習慣が身についている。 我々日本人もこの良い風習は積極的に取り入れるべきであろう。このようにリスクの大きな器具類はポジティブ(積極的)にその使用を止めていくべきである。それに代わり肯定的に捉えられる暖房設備を積極的に導入する事が快適な住環境へと続く道筋なのである。設備の選考に当たっては出火に対するリスクを避ける事は云うまでも無いが、その他にイニシャルコストを考慮する事も大切なことである。 更に考慮すべき事は、暖房設備の設置後に発生するランニングコストと製品のライフタイム(寿命)を忘れてはいけない。兎角、導入時のイニシャルコストは考えるがランニングコストや保守・メインテナンス費用や設備の更新周期などを失念する事が多いと思われる。

設備導入時には機器メーカーや販売店の営業担当からスペック(スペシフィケーション・性能機能)などに関しては種々説明を受けると思うが、往々にして設備機器の長所やメリットのみの説明に始終し、特に保守・メインテナンス費用、及びライフタイムなどの説明を避けて通るケースが多々見受けられる、事実として一時期新聞紙面などを賑わしたことがあった。機器の寿命と更新周期を説明せずに、それに掛かる費用を織り込まずにメリットの部分だけを説明し売りつけようとした大手の会社があったがやはり当局から指導が入った。設備の更新周期や定期保守のスケジュールとそれに掛かる費用などロングレンジな計画性をもって暖房設備の選定をしていただく事が肝要である。さもないと、設備導入したけれども期待した通りの経済性が出なかった、または快適性が得られなかったなどと臍をかむ苦い経験を強いられる恐れがある。

さて、冬季の快適性の確保であるから先ず初めに暖房設備であることが判るが、前述の安全性においてリスクが大きくネガティブ面の大きな器具類、例えば石油ストーブ、ガスストーブ、及び電気ヒーター(石英ヒーター、カーボンヒーターを含めて)など自立型で裸火然とした器具を建物内で使用する場合は使用を避けるべきである。出火や火傷のリスクが高く、高齢者や身体の不自由な方などに対しは着衣着火などを起こすリスクは決して低くないので、使用は避けるべきである。

事実、著者の母が生前に床暖房の入っている部屋にも拘わらず石英ヒーター型の電気ストーブを使用していて着物の背中を焦がした苦い経験がある。部屋の中は十分に温かいのであったが、室内に従来型の炎の揺らぐ直火や赤々と光るヒーターなどが無いと視覚的に温かく感じない生活習慣や今までの経験が残っていた為と思われるが、いつの間にか室内(老人室)に電気ヒーターを持ち込んでしまった様である。母の育った大正時代や昭和初期の年代の住環境では囲炉裏(いろり)、炬燵、火鉢などが通常の生活空間で永い間使われてきた事から生活習慣として暖房機器(設備)に対する既成概念がしっかりと出来上がってしまったようである。これに懲りて、母の部屋には代わりにオイルヒーターを安全対策として置いて上げた、寒さを感じたらスイッチを入れなさいと話した事がある。

その他の暖房機器類の石油・ガスファンヒーターは強制排気式であっても燃焼部分が室内に在る場合は点火時・消火時に不快な臭いを発生させる場合があり高気密住宅では酸欠や二酸化炭素からの脅威が常に付きまとうであろうし、石油ストーブにあっては燃料の補給時や不慮の転倒による失火のリスクや電気ヒーター同様に着衣着火のリスクは相当に高いことから、明らかに今日的戸建住宅には不向きと言える。

この様に書くと暖房器具メーカーから強力なクレームが舞い込んで来ることが予測されるが、事実として国内のこれら器具に対する安全規格などは特に欧州のEU・CE安全規格と比べると大きく水を空けられている。例えば、ガスコンロの点火ノブがワンタッチで入ってしまい本人の知らない間に着火してしまい火災に至った例などが度々新聞紙面を賑わしていたのは読者の方々も記憶に新しい事と思う。

家庭内にはこれらの暖房器具からの火災などのリスクのほかにも多くの危険性が潜在的に少なからず存在している、これらを可能な限り排除することも戸建住宅内で快適に生活するためのもう一つの住環境側面である。但し、安全性に関するディスカッションは紙面の制約があるので次号で改めて著者の考え方を述べさせていただきたいと考えている。


矢印2-3 現代の戸建住宅向けの暖房設備など

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