グランドデザインコンテスト

現代住環境

第2章 国内の戸建住宅における快適性

2-4 遠赤外線・輻射熱式(床暖房)

第三グループは遠赤外線・輻射熱式の暖房設備で床暖房になるが、熱を室内に放出するのは床面全面からの放出である。放出という表現は適切ではなく、正しくは遠赤外線を床の素材から輻射する方式の暖房で、前述の表現と同じにするならば、底面熱源・自然輻射熱型暖房と言える。床暖房は、従来は商業施設、個人商店など床面積の大きな建物に施行されていたが、十年前頃から戸建住宅などで採用されるようになり急激に施工実績を伸ばしているし、住宅メーカーなども新築住宅の標準オプションに設定するなどして人気急上昇中の暖房設備である。

ここで床暖房の暖房原理を概説しておく、やや専門的な解説になるが、従来のエアコン方式の暖房とは根本的な相違がある事を理解いただきたい。熱を輻射する床材(フローリング等の木質系、またはタイル等の石材)の中または下に温水、又は電気ヒーターで熱エネルギーを供給し床材に熱伝導でエネルギー(エネルギー1と仮称)を伝える。エネルギーをもらった床材は、今度はもらったエネルギー1(例えば赤外線)よりも低いエネルギー2(例えば遠赤外線)を自身の床材から空間に輻射する。

この輻射されるエネルギーが遠赤外線で、広義の意味で物理科学の蛍光現象と言える。この現象で身近なものは蛍光灯があるので、これを例にして簡略的に説明する。蛍光灯の管内では先ず初めに高電圧放電を起こさせて管内に入れてある水銀蒸気にエネルギーを与える、エネルギーを貰った水銀は自己が持つ固有の波長の光を放つが、この光は紫外線のために人の眼には見えない。次いで水銀の光が水銀灯のガラス管壁に塗ってある特殊金属粉末(蛍光剤)にエネルギーを与える。蛍光剤はこのエネルギーを貰い奮い立ち(励起)元気になったところで貰ったときの光よりも波長の長い新しい光を放出する。この光は眼で見る事ができる可視光線である。この様に光から光へリレーしてエネルギーを受け渡して光を発する物理現象を一般に蛍光現象と呼ぶ、そしてこの物理現象を利用したランプを蛍光灯と呼ぶようになったのである。

フローリングなどの床材から遠赤外線として室内へ輻射されたエネルギー(遠赤外線)は、人の衣服などを透過し、なお人の皮膚表面から体内まで浸透してそこで吸収されることで人は温かさを感じるのである。 赤外線を肌の表面で受けた温感や熱さとは異質なやさしい温感を与えてくれるのが遠赤外線なのである。床暖房は床材そのもの内部から熱が輻射される、本当の意味で底面熱源・自然輻射熱型暖房であり、強制的送風や空気攪拌は一切行っていない。床暖房の遠赤外線(熱)の出方を別の方法で概説するならば次のように表現するのが適切であろう、ある一瞬の時間を切り取って熱の移動を見てみるならば、床全面から輻射された熱レイヤー(層)がそのまま静かに上へ層流となって移動していくし、さらに上昇し天井付近まで達する。暖かい空気は自然に下から上へ上昇して行く物理現象そのものであって、エアコンの強制送風式とは根本的に異なるのである。そして、輻射熱が絶え間なく床材から出てきて層流となって部屋を暖めていき、上昇した空気は上層部の冷たい空気にエネルギーを渡すことで徐々に温度が下がってくるので、床面が温度が高く天井付近が低温になる頭寒足熱が無理なく実現できるのである。

床暖房を別の方法で表現するならば、無風・無音で、空気は決して乾きすぎる事は無い暖房で「快適」そのものの代名詞なのである。さらに、床暖房の優れている事は、室内に輻射される遠赤外線のエネルギー量(言い換えれば部屋の温度)は熱源温度と周囲温度の温度差で自動的に決まる輻射効率に依存している。 つまり、室温の温度調節が自然状態で自動的に行われ、特別な温度制御システムなどは不要なのである。 真冬の寒いときには遠赤外線を多く輻射してくれるし、春先のぽかぽか陽気になれば遠赤外線の輻射を自動的に減らしてくれて室温は自動的に一定の温度に保ってくれる、そして結果として「頭寒・足熱」が得えられるのである。

12それでは、この快適な室内の温度は何℃であろうか室内温度を実測している写真を下に示す。右の写真がフローリングの床表面の温度を校正済み熱伝対ディジタル温度計で実測しているところで20℃を示している。左の写真は床高100cmでの温度で18℃を示している。100cmは椅子などの座位における頭の辺りに相当する。測定結果の通り床面で20℃、100cm高さで18℃、及び天井付近では約15℃〜16℃である。この温度は、「高所熱源・下向送気型暖房」(エアコン)の温度分布状況と大きな違いがある事にお気付の事と思う。床暖房はこの様に低い温度に拘わらず至極温かく感じるし、何よりも静音・快湿度で室内の住環境は「快適」そのものである。

13さらに床暖房の長所を記述すると、現代の戸建住宅は広いリビングルームとそれに見合う高い天井を持つ様になって来たし吹き抜けやロフトなども決して珍しい設計ではなくなった。

天井が高い建物は従来のエアコン式暖房設備が最も苦手としていた場所であり、せっかく暖かい空気を室内に送り出しても、その空気はどんどん上のほうに昇ってしまい、足元は冷え冷えとした短所を持っている。 この難問に回答を出せるのが床暖房である。天井の高い室内空間を効率良く暖房するには床暖房しかないと言っても過言ではない、床面から輻射した熱はレイヤーとなって静かに層流のまま上へ上へと昇り最終的には吹き抜けと床面に一定の温度勾配を作って安定する、この温度勾配は依然として「頭寒足熱」型の温度分布を保っているのである。

床暖房は、機械的なコンプレッサーを使うエアコンと異なり経済性に関しても優れている、なぜ床暖房が経済性に富んでいるのかという詳細説明の前に、逆になぜエアコンが不経済なのかと言う説明を詳細に知っていただく必要がある。残念ながら、紙面の制約があるので次号で両者を比較しながら詳細な解説を試みたいと考えている。加えて、床暖房でも熱源に何を利用するかによって経済性に大きな差異が生じる場合があるので熱源別の解説と、併せて、床材の木質系フローリングと石材蓄熱式の違いとメリット・デメリットなどについて次号で解説を試みる予定でいる。


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